最近のコンサートより


2月7,13,15日

聖トーマス教会合唱団&ゲヴァントハウス管弦楽団
J.S.バッハ「マタイ受難曲」〜日本語字幕付

池袋:東京芸術劇場 18:30〜

演奏者

Cd
ゲオルク・クリストフ・ビラー
S
アーデルハイト・フォーゲル
A
アンネッテ・マーケルト
T
マルティン・ペッツォルト
B
ゴットホルト・シュヴァルツ、マッティーアス・ヴァイヒェルト

バッハがカントル(教会音楽監督)を務めた名門聖トーマス教会合唱団が 5年ぶりに来日。東西ドイツ統一後揺れに揺れていた聖トーマス教会であったが、 名カントルであったロッチュの後をついでビラーが新カントルとなることで 新たな時代を迎えることになった。

カントルが代わってからの初来日ということで 音楽の変化が注目されたが、合唱団のレヴェルは5年前の 来日とくらべてずいぶん向上しているように感じた。 また若いカントルの就任で、以前よりも 表現意欲にあふれた演奏をするようになったようだ。 冒頭の合唱では強烈な子音のために逆に何を言っているか 分からないほどであり、こういう演奏は前カントルのロッチュの時代には 考えられないものといえるだろう。

ゲヴァントハウスとトーマス教会の取り合わせによる バッハの演奏の良さは、曲のすみずみまで知りつくし、 さらに表現方法まで意志統一のとれた伝統的な解釈による 緻密で丁寧な演奏が聴けるところにある。 一つ一つの音に対して丁寧にアーティキュレーションをつけ、 全員の意志統一のもとに全体を組み上げていく。 これだけ練り込んだバッハ演奏は、やはりそうは聴けるものではない。

また、トーマス教会の演奏によるコラールは、 聴いている者の胸を打つ強い説得力を持っている。 伝統の演奏と言ってしまえばそれまでだが、 コラールの持つ深い精神世界を余すところなく歌いあげ、 マタイ受難曲の演奏の中核にまで持ってくるこの演奏からは 曲本来の姿というものが感じられる。マタイ受難曲と言えば、 最近は古楽器オーケストラとプロ合唱団の組み合わせによる演奏が 主流になりつつあるが、そのコラール演奏が往々にして 精神的に希薄になっているのとは対照的であると言えよう。

この日の演奏では、曲全体の頂点が63曲目のコラール 「おお、血と傷にまみれし御頭」にあるようであった。 このコラールはここで2回繰り返されて歌われるが、 その高い集中力をともなった演奏は、トーマス教会ならでは と言ってもいいだろう。いくら技術が向上しても一般の合唱団では この精神性を造り出すのは不可能なのではないだろうかとすら 感じられた。 最後になったが、字幕について触れておく。 タイトルにもある通り、今回のコンサートは字幕つきで上演された。 その内容は分かりやすい口語訳でありながら、 決して俗に堕ちない質の高いものであり、音楽とテキストの 結び付きを再確認する意味でも有意義な企画であったと思う。 しかし、字幕つきのステージでよくあることだが、 曲と字幕の進行が一致しないことが時々あった。 いつも思うことだが、これは何とかならないものなのだろうか?

(宮内)


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