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音楽資料室中世ルネサンスバロック古典・ロマン派近現代解説項目

ルネサンス

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Victoria
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  O magnum mysterium

Ne irascaris Domine
主よ怒りたもうことなく

最終更新日: 2002年3月24日
[Byrd]->[Ne irascaris Domine]->[解説項目]

作曲技法:

この曲は、流れるような柔らかい旋律線とそれによって織りなす 息の長い洗練されたポリフォニー、また長三和音を基本とした豊かな響きを 持つホモフォニー部分などを持っており、バードの特質が 十分に活かされた作品といっていいだろう。

[譜例1]
[byrd-1]

ポリフォニー部分に関するこの曲の特徴は、模倣されるモチーフの短さと それと対照的な展開部分の長さである。[譜例1]に示したように模倣される モチーフ(ここでは``desolata est'')そのものは大変短いのであるが、 その模倣は何重にも折り重なり、徐々に積み重なって全体でクライマックスを 構成する。こうしたポリフォニーの部分では、その練れた対位法処理と 素材となる旋律の柔らかさによって、まるで織物でも見ているかのような 息の長いポリフォニー音楽が展開されていく。

そしてその到達する先には、長三和音によるホモフォニーの部分が 待っており[譜例2]、ポリフォニーの部分との著しい対比を見せている。 その長三和音も明るさや華やかしさよりもむしろ、優しさや暖かさを 感じさせる響きを聞かせてくれる。

[譜例2]
[byrd-2]

しかし、その長三和音も決して幸福を表すわけではなく、例えば [譜例2]では美しいF-durの響きのなかで、シオン滅亡の嘆きが歌われている。 ここに他国には見られないイギリス独特の表現がある。深い悲しみを たたえた長三和音の響き。その逆説的な表現の中で、イギリス人そして バードは美しくも悲しい嘆きの世界を見せてくれるのである。

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推奨音律 中全音律

ルネサンス期のイギリスは、大陸よりも三和音を好む傾向があり、 この曲も終始厚い長三和音に包まれている。 この曲を演奏するにあたって、この三度を純正にとるのは 必須であると思われるので、中全音律が適当と考える。

またバードは、当時オルガニストとしても有名な音楽家であったので、 その音律は当時のオルガンの音律としてスタンダードであった 中全音律を念頭に作曲を行なっていたと考えるのが自然であろう。

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音楽修辞学:

Noema

大陸の作品に比べて曲中にホモフォニーの部分が多いのは、 この時代のイギリスの作品の一般的な傾向であるが、 バードの場合はそのホモフォニーの使い方が非常に効果的である。

例えば、33小節目の Ecce「見よ」や106小節目以降の Sion deserta 「シオンは荒された」など、曲中で重要な個所にホモフォニーを 持ってくることで、その部分を浮き立たせて強調することに成功している。

Catabasis

曲の終盤近くでは、長三和音の響きの中にも ``desolata est'' の 下行音型を積み重ねることでエルサレムの荒廃の嘆きを表現している。

(宮内)

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推奨される歴史的発音: 16世紀以降のイギリス ラテン語

彼の20才の頃の作品ということで、16世紀以降のイギリス ラテンであることは 間違いない。ただ、イギリス発音の問題の一つは、固有名詞などのスペルが 一定していないことである。この曲に出てくる Jerusalem もその 1つで Hierusalem と書かれたりもする。実際、これは I と J の発音に区別が なかった時代からの借用を意味しており、バードがこの Jを dZ と 発音したかについては議論の余地があるが、ここでは Hi も dZ と 発音したとする意見に賛同し dZ と結論づけることにする。

(新郷)

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